Hagenbeck Tierpark
ハーゲンベッグ動物公園


報告者は 落合知美
訪問日は、2007年8月13日(日)です。
それぞれの写真をクリックすれば大きい写真を見ることができます。

 動物園の歴史について勉強した人なら、「ハーゲンベック」という名を聞いたことがあると思います。動物商として活躍したカール・ハーゲンベック氏が、1907年5月に作ったのがこの動物公園です。

 檻を並べた展示が当たり前の時代に、檻を使わず「堀」を使って展示したそうです。手前の池にフラミンゴ、その奥にシマウマ、ライオン、そして背景にそびえたつ岩山に偶蹄類がいる「パノラマ展示」は、とても有名です(左写真。現在もこの光景は健在でした!)。日本の動物園もこの影響を受け、東山動物園が1937年(昭和12年)に開園した時には、いち早くこの「ハーゲンベック方式(無柵放養式)」を導入したと言われています。ハーゲンベック氏はサーカスでも有名で、1933年(昭和8年)には来日して、猛獣ショーな どをおこなったそうです。

 日本の「無柵放養式」や「パノラマ展示」には、いまいちピン!とこなかった私は、丸1日使ってベルリンからこの動物園へ日帰り訪問しました。

 

 ハーゲンベック動物公園は、ドイツで2番目に大きいドイツ北部の都市「ハンブルク(Hambrug)」にあります。ハンブルクは、古くから貿易で栄えた港町で、動物商だったハーゲンベック氏がここを拠点として活動したことも理解できます。ベルリン中央駅(Lehrter Hbf) 9時18分発のICE(日本の新幹線のようなもの)に乗り 、11時にハンブルク中央駅(Hambrug Hbf)に到着しました。北口を出て地下鉄2番(U2)に乗り換え、14分で「ハーゲンベッグ動物公園(Hagenbecks Tierpark)」駅に到着しました(右写真)。

 駅には動物園に向かうたくさんの人がいました。地下鉄の階段を上がると、大きなキリンの像が見えました。首のところに人がつかまっています(右写真)!入口横には、豪華な中国風の建物が建っています。動物園は12ユーロ(1900円)、水族館は9ユーロ(1500円)と、少々高めでした。

 今回は、この動物園の独特な「見せ方」について、それから新しい展示である「熱帯水族館」(2007年5月)と「オランウータン舎」(2004年)について報告します。


見せ方

 入口を入ったすぐ横には、言葉の違う園内地図が並んでいます。日本語はなかったので、英語とドイツ語の地図をもらいました(左写真)。この動物園は、入口から番号にしたがって園内をくるくるまわる形になっています。順路は合流したり、交差したりして複雑です。

 最初は、ゾウの展示です。たくさんの人がゾウに餌を与える光景にびっくりしました(写真右)。実は、もらった地図の裏にも、「餌を与えることは素敵な体験です。この動物園ではいくつかの場所で餌を与えることができます。園内で販売されている餌や野菜、果物を与えてください。パスタやパン、ケーキは有害です。」と書かれています。

 ゾウは群れ飼育で、ざっと見ただけでもオトナのゾウが5個体以上いました。それぞれの場所で、来園者に向かって鼻を伸ばしています。ゾウ1-2個体につきトレーナーが1人いました。与える餌をチェックしているようです。子ゾウたちもいました。餌まで鼻が届かないので、お母さんのおこぼれを必死でもらっています(左写真)。

 番号に従って先に進むと、ラクダやシカ、マントヒヒ、カワウソなどがいました。モルモットもいます。かわいい家に水車がまわっていて、おしゃれです(左写真)。

 ペリカンの先には、クマが手前の水堀で水に浸かっていました。見ていると、クマは陸にあがり、においを嗅ぎながら地面をうろうろし始めました。すると、藪の中からホッキョクギツネがあらわれました。クマの様子をうかがいながら、場所を移動します(右写真)。めったに見ることができないやりとりに、目が釘付けです!

 その後、昔の入口門(ゾウやホッキョクグマの像がついている有名なもの!)をくぐると、池が広がる開放的な広場に出ます。ここはアジア風で、鳥居や大仏などもあります(左写真)。ちょ うどフリーフライトショーが始まる時間です。

 ショーでは、コンゴウインコが美しく飛び(右写真)、オオハシがボールを拾い、アカハナグマが子供たちの背中を渡り(左写真)ました。説明のドイツ語はよくわかりませんでしたが、マイクを使い、来園者を巻き込んで、盛り上がっていました。ショーをおこなっている空間は開放的で、順路に関係なく様々な場所からショーを見学することができます。こうした、閉鎖と開放空間の使い分けが、非常にうまい動物園だと思いました。

 視点についてもよく考えつくされています。冒頭に書いた、フラミンゴの池を通して、草食獣(シマウマ、ダチョウ)、肉食獣(ライオン)、擬岩にアンテロープが見える光景ですが、これは動物園の端にあるレストランから眺めることができます。レストランに行くには、植物で囲まれた小道を歩きます。うっそうとした小道を歩くと、先にレストランが見え、その空間に出て振り返ると、はるか遠く岩場までの風景が広がるのです。

 複雑に入り組んだ園路にも、数々の工夫がされています。園路は複雑なのですが、次の進行方向にやや道幅が広がり開放空間をそちらに見せています。そのため、来園者はほとんど道を間違えることなく、自然に進むことができます。もちろん、順路を示す看板もたっていますが、日本のように看板の前で考え込む必要はありません。

 レストランから見ると、遠くに連なって見えるシマウマやライオンも、それぞれ近くで見ることもできます。実は、この原理は岩場の塔の上から見ると一目瞭然です(写真右)。斜面を利用して、動物屋内施設・動物放飼場・堀・来園者通路・動物室内施設・動物放飼場・・・と連続させているのです。もちろん、屋内施設は岩のように見せたり、来園者の頭がじゃましないよう通路を低く下げ、植木を利用して隠れるよう工夫されています(左写真)。動物たちを、遠くからも、近くからも見れ、かつ景観を失わない工夫が細やかにされています。

 こうしたものが1907年にできたという事実に驚くとともに、今まで「ピン!」とこなかったことが、やっと納得できました。ハーゲンベックを真似て作ったものは、しょせん”マネ”だったのです。ビューポイントの設定や、開放的空間と閉鎖的空間の使い分け、動物の行動や習性に対する理解など、今でもこの動物園から学ぶべきものは多い、と思いました。


熱帯水族館 Tropen-Aquarium

 水族館は、入口すぐ奥にある5月にできたばかりの施設です。日本の水族館を見慣れている私にとって、ドイツの水族館はどれも”いまいち”だったので、あまり期待せずに入りました。

 暗い場所にある扉2枚をくぐると、そこは開放的な明るい室内でした。2階建ての木造の小屋があり、ワオキツネザルが地上を歩いたり、階段や柱を飛びまわっていました。来園者はキツネザルと一緒に写真を撮ったりします(左写真)。見張りのスタッフがいましたが、特に注意はしていませんでした。キツネザルも、適当に逃げる場所があるからか、のんびりとしてしていました。

  ゆっくりしたいところでしたが、後から次々と入ってくる来園者に押し出させるような形で次に進みます。狭い廊下を進むと、再び天井が高く、明るく開放的な空間に出ました。通路の横には小川が流れていて、カメレオンやカメ、トカゲ、ワニなどがいます。丸太やロープ、擬岩、石などで動物たちの空間を分けています。また、来園者通路は狭いため、ほとんど一列に並んでゆっくりその空間を体験します。そのため、「次は何?」とか「ほらあそこ!」とか話しながら、前後の人と一緒にその空間を楽しみます。

  途中、階段をあがったり、橋を渡ったり、暗い空間を降りて行ったりと、大きくない建物を上に下に移動します(写真右)。狭い通路を結構な距離歩くのですが、「小川沿いの湿潤地帯」「砂漠など乾燥地帯」「湿度の高い熱帯」「マングローブ林」「洞窟の中」「潜水艦の中」「深海」などといったテーマ設定が次へ次へと変わるので、「次は何だろう?」という期待感が続きます。建物の中は、実際よりずっと広く感じます。コビトマングース、コウモリなどの小型の哺乳類や鳥類などが同所的に飼育されており、動物種の幅が広いのも特徴的です。

  最後は、建物の内部を上から眺められるレストランに出ました。その先にはお土産屋、そして建物の外となります。屋外は普通に晴れたドイツの日曜日(ハンブルクは涼しいので快適!)でした。そして、今まで異次元空間にいたような気がしました。

 来園者への心理効果をうまく利用した施設でした。「水族館」という枠にははまらないこの展示を経験して、「これだけでも来た価値があったな」と思いました。


オランウータン舎 Orang-Utan-Haus

 オランウータン舎は、2004年にオープンした施設です。入園した門のすぐ北手にありますが、園内を順番通りに歩くと、最後に訪れる施設です。

 ちょうどそのあたりは、アパトサウルスやパレイアサウルス、トリセアトプスなど、私の知識の少ない絶滅した動物類(恐竜です)が展示されています。もちろんコンクリートで作られた偽物なのですが、それっぽい色が着けられ、池や緑の中から姿が見え、ちゃんと分類や生息地を説明する看板が立っています。なかなか面白い空間です。

 そんな不思議ワールドの先が、オランウータン舎です。半円形の屋根が特徴的な半屋外の施設となっています(左写真)。内部には擬岩と擬木、それに植物などがあり、その間をロープやハンモックなどが所狭しと設置されています。


 オランウータンは、大人子供合わせて10個体いました(左写真)。手前の水堀には、コツメカワウソも一緒に飼育されています。放飼場では、こどもたちが麻袋を引っ張りあいしたり、追いかけっこをしたりするので、ずっと見ていても飽きません。そして、
ここで私が一番驚いたのは、オランウータンの移動用具に、揺れる竹のポールが使われていたことです(右写真)!

 ナショナル動物園のO-line(オーライン)を初めとして、旭山動物園やいしかわ動物園、多摩動物公園などで、高いポールの間にワイヤをはり、そこをオランウータンが移動できる施設が増えています。これは、樹上生活者であるオランウータンにとって、とても良い変化だと思います。しかし、オランウータン本来の移動様式は、テナガザルやチンパンジーがよくおこなう腕渡り(ブラキエーション)とは少し違い、垂直に伸びる枝やツルを利用したり、自分の体重で枝などをしならせ、次の枝を手に取り移動することが多いのが特徴です。横に張られたワイヤでは、この行動はできません。そのため、オランウータン研究者の方や飼育者の方と、「次は垂直で縦に揺れるような素材を使って、高い位置での空中移動ができればいいね」と、話していたことがありました。そして、このアイデアを、いったいどこの施設が最初に具体化するだろうと思っていたのです。

 まさかと言うか、やはりと言うか、実現していたのはハーゲンベック動物公園でした!オランウータンたちは、手足を使って竹にのぼり、体重をうまく移動して竹のポールから竹のポールへと移動していたのです。ハーゲンベックの展示では、動物の生態をよく知ってこそできるものがたくさんあります。ここでも、この動物園の底力を感じました。


感想

 今回、オーストリアとドイツの動物園を7園まわりました。一番好きな動物園はケルン動物園でしたが、一番印象深い動物園はこのハーゲンベック動物公園でした。やはり、動物園を勉強するのなら、一度は見ておきたい所だと思います。

 今だに、展示の概念を変える影響力は健在でした。また、時代遅れとなりかねない過去の建物も、すべて歴史を作り上げた偉大な功績として、大事にしている様子もうかがえました。歴史を説明した看板や銅像、売店での資料も多く、勉強になりました。開園から100年以上たった今でも、ハーゲンベックの子孫が動物園の運営に関わっているそうです。そうした歴史を重視する態度は素敵に感じましたし、以前からの風景がそのままに存在することもうれしいことでした。

 一方で、吊り橋があったり、馬車が走っていたり、動物に餌を与えることができたりと、楽しみたい来園者の多様なニーズを汲み取っているのにも感心しました。この場合も、来園者のニーズに流されてしまうのではなく、スタッフを配置したり、細やかな説明を加えたりと、園の態度をきちんと出しているのが、さすがだなと感じました。

 新しくできたオランウータン舎や水族館を見ればわかるように、ハーゲンベックはまだまだ新しい方向に進んで行っています。次の計画は、2009年に完成予定のホテルだそうです。地下鉄を降りてすぐの場所に、池に向かって突き出した、アジア風ホテルができるんだとか(完成予想図を見ましたが、やはりちょっと不思議空間・・・)。これからも楽しみな動物園です。


公式ホームページはこちら http://www.hagenbeck-tierpark.de
基本情報は、こちらをチェック。
ご意見ご感想は、落合(ochiaiの後に@マークをつけてzoo-net.org)まで。


 Copyright(C) 2007, 市民ZOOネットワーク, All rights reserved.