Zoo Koeln
ケルン動物園


報告者は 落合知美
訪問日は、2007年8月15日(水)です。
それぞれの写真をクリックすれば大きい写真を見ることができます。

 もう10年以上前に、海外の動物園をたくさん訪問している人から「ケルン動物園がお勧めだよ!」と聞いて以来、ずっと行きたかった動物園です。今回の旅はフランクフルトから帰国予定だったので、帰国前日にフランクフルトからケルン動物園に日帰り訪問しました。

 フランクフルト中央駅を8時42分発のICE(ドイツの新幹線のような高速列車)に乗り、フランクフルト空港駅でホーム向かいのICEに乗り換え、10時にケルン中央駅に到着しました。事前に行き方をきちんと確認していなかったのですが、ケルンの地下鉄路線図(左写真)を見たところ、駅から少し北のライン川沿いの場所に「Zoo / Flora」という駅名を発見。そこで、地下鉄の乗車券(1.4ユーロ)を買い、北行き18番に乗り、6分で到着しました。駅を降りると、ライン川は見えないものの、餌を食べているロバを発見しました。どうやら駅の構内から動物園内部が見えるようです。動物園入口に向かい、入園料(13ユーロ、約2000円とちょっと高め)を払い、門をくぐりました。

 天気の悪い平日にも関わらず、たくさんのお客さんがいました。園内地図の書かれたフリーペーパー(右写真)を確認すると、トップニュースはアジアゾウの子供3人組でした(詳細は、以下で報告)。サマーナイトやハロウィーンの企画案内もありました。

 ケルン動物園は1860年に開園し、ベルリン、フランクフルトに次いでドイツで3番目に古い動物園だそうです。そのため古い建物も多いようですが、2004年には2haという広大なゾウの飼育場を作るなど、新しい試みもどんどんおこなっているようです。その中から今回は、「霊長類」と「アザラシのトレーニング」、「ゾウ舎」について報告します。


頭上の霊長類 Primates

 園内を歩き、ミーアキャットやマレーグマ、チーター、レッサーパンダなどを見て、「エンリッチメントはしっかりやってあるな」と思いました。しかし、どの動物もこれといったインパクトもなく、「お勧め動物園といってもこんな感じかぁ」と思いながら、目の前に現れた古い建物に入りました。

 するとそこは予想外の世界でした。建物の中は、天井を通して日光がさしこみ、天井までたくさんの観葉植物が生い茂っています(左写真)。そして頭上には、右へ左へとサル用通路が張り渡され、サルたちはそこを高速で走りぬけたり、ゆっくりくつろいだりしているのです。もちろんサルたちには、来園者とガラスで仕切られた「屋内展示場」と、それに隣接して「屋外放飼場」があります。その出入りも自由になっている上、頭上の複雑な通路を使って屋内展示場どうしの行き来も自由になっているのです(右写真)!展示場内には、ロープや木の枝、玩具などがたくさん設置され、エンリッチメントされています。サルはある屋内展示場内をこうした遊具を利用して縦横に飛び回り、頭上通路を使って対面の屋内展示場に移動し、屋外放飼場への扉のシートをめくって出て行く、なんてことも可能なのです。

 またよく見ると、ホエザルやタマリン、サキといった種の違う複数の霊長類が、その頭上通路を一緒に使用していました(左写真)。頭上通路は、複雑に繋ぎあわされているので、いったいそれぞれのサルたちが使える空間がどこまでなのか見ていてもわかりません。でも、これほど複雑で、ルートもいくつかあるので、お互い避けて通ることも可能なようです。びっくりしたのは、頭上だけではありません。足元には、室内だというのにウッドチップが敷き詰められていて、それが水に濡れてしっとりしていました(日本では腐ってしまう?)。また建物の外を見てみると、屋外放飼場からも頭上通路は伸びていて、それは近くの木に渡してありました(写真右)。その木の幹にはサルたちが地面に降りられないようシートが張られています。まわりの木とも枝を重ねていないので、この木にやってきても逃げてしまうことはないのでしょうか。

 結局、動物たちの動きと建物の構造に興奮して、この建物に長時間滞在しましたが、その構造や動きをじゅうぶん理解することはできませんでした。だた、改めて思ったのは、サルは地中の穴に隠れる動物でなく、樹上で飛び回る(もしくは樹上に逃げると安心する)動物であるということです。ケルン動物園では、この「南米館」以外にも、「マダガスカル館」や「類人猿舎」で霊長類を飼育しています。そして、すべてにこの"頭上移動"の方法が使われていました。このケルン動物園スタンダードが、日本の動物園にも広まってくれればいいなと思いました。


アザラシの認知実験 Experiment of harbour seals

  もう1つ、この動物園で驚いたのがアザラシのプールです。園内見学中、給餌時間でもないのにプールに人が集まっているので、何をしているのだろうと覗いてみると、女の人が1人、浮きの上に立っていました。アザラシたちはネットで仕切られたプールの中を泳いでおり、プールの中には、金属やプラスチックなどでできた変な装置があらゆるところにありました。

 女性が指示を出すと、アザラシたちは水面に垂れ下がったざまざまな形をした輪の中に、首を入れて並びました(右写真)。皆、女性の方を向いて指示を待っています!そして次の指示で、1匹のアザラシが水中の扉に向かい、すかさず女性が扉の紐を引っ張り、その個体だけがネットの仕切りからすべり出ました。他のアザラシも扉から出ようとしましたが、すぐに扉は閉められ、未遂に終わりました。「チェッ」と言うような声が聞こえてきそうな動きと表情です。

 すべり出た1匹は、別の女性二人がいる場所へと泳ぎ、水中に設置されたネットの上に体を置きました(左写真)。そして、金属の輪の中に鼻先を入れ、指示を見て、右や左に鼻先を動かしています。どうやら認知実験がおこなわれているようです!動物園でこんな光景に出会うとは、思いもよりませんでした!

 掲示などを確認して(ドイツ語でしたが)、ボーフム市のルーア大学がケルン動物園に「海洋科学センター(Marine Science Center)」を設置しており(右写真)、その研究者が実験をおこなっているということがわかりました。そして、プール内に置かれているさまざまな装置は、その実験用であり、奇妙に見えた装置は、ジョイステックだったりプラネタリウム(!)だったりすることがわかりました(左写真)。

 海洋科学センターは、アザラシのプールのすぐそばにある小さな建物で、室内には書籍が詰まった本棚とパソコンが整備されていました。実験は、基本的に常に来園者に公開されているそうです。ホームページには研究成果なども記載されていました。インターンも受け入れているそうです。アザラシの賢さにも驚きましたが、そうした体制つくりにも驚きました。
海洋科学センター(Marine Science Center)のwebサイトはこちら→http://www.marine-science-center.de

ゾウ舎 Elefantenpark

 ケルン動物園の今一番の話題は、アフリカゾウです。2004年にオープンした2haのゾウ舎が、全敷地面積(20ha)の1割を占めることからも、ケルン動物園のゾウに対する意気込みが感じられます。
ゾウ舎のサイトはこちら→ http://www.zoo-koeln.de/elefantenpark

 この施設ではゾウの群れ飼育と繁殖を目指していて、2006年3月30日には待望の赤ちゃんが生まれました。その女の子はマーラー(Marlar)と名付けられ、大人気になったそうです。私が訪問したときも、来園者から「マーラー」と名前を呼ぶ声が聞こえていました。ゾウ舎の様子をwebカメラで常に公開していたり、12月にマーラーの母親が死亡し母親の友人たち(妊娠中で授乳が可能だった)によって育てられたりなど、話題も多かったようです。園内には「マーラーはこんなに大きくなりました」といった実物大の看板も立てられていました。(現在もゾウ舎の様子はwebカメラで公開中だそうです)

  広大な屋外放飼場では写真が撮りにくいので(左上写真)、屋内放飼場に移動した頃をねらって訪問しました。屋内放飼場は広く、天井も高く、ゾウたちは床に置かれた餌を食べていました(右上写真)

 マーラーと思われる個体もいました。現在は、2007年4月16日に生まれたミン・ユン(Ming Jung)と、5月9日に生まれたマー・クマリ(Maha Kumari)が小さな体で遊びまわり、とてもかわいかったです。二人は、マーラーに遊びかけたり、餌を食べているオトナの周りを追いかけっこしたりして遊んでいました(左写真)。そのうち疲れたのか、大鋸屑が山盛りにおいてあるところに倒れこみ、二人して寝てしまいました(右写真)。二人が一緒の格好をして眠る姿は本当にかわいかったです。また、それを見守る大人のゾウたちの優しさも、見ている私たちに伝わってきました。

 日本のゾウは単独飼育だったり、せっかく子供が生まれても人工保育だったりで、なかなかこういった姿は見られません。でも、母系の年齢の違う個体同士が1つの群れで暮らし、支えあって生きるのが、ゾウ本来の姿のように思えます。飼育下でそれを実現するのは難しいかもしれませんが、ぜひぜひこうした姿に切り替わって行ってくれればと思います。


感想

 最初は、「普通?」と思った動物園でしたが、園内を回るうちにやはりその「ベースにある強さ」をじわじわと感じました。動物に対して愛情を持つのはもちろん、動物種に対する知識の裏付けと、得られた経験を生かす体制があり、それがこうして普通に訪れた来園者に、じわじわと見えて来るのだと思います。

 新しい施設や出産・移動などの話題は一時的なものとなりがちですが、こうしたベースの強さが「お勧め動物園」としての地位を確保させているのだと思いました。今回、7つの動物園をまわりましたが、やはり1番の”お勧め動物園”はここでした。(”旬な動物園”はフランクフルト動物園、”一度は見ておきたい動物園”はハーゲンベッグ動物園でした)。派手さはないので、動物園をあまり訪問したことのない人にとっては、その良さがわかりにくいかもしれません。しかし、しっかりとした強さのある動物園なので、ぜひ訪問して欲しいなと思います。

写真左:天井から吊り下げられた麻袋に入って顔だけ出し、こっちをうかがうアビシニアコロブス。麻袋が袋状になったままなので、顔だけちょこんと出ていてかわいかったです。
写真右:緑いっぱいのボノボの放飼場。奥にはおなかに子供を抱えているボノボも2個体いました。


公式ホームページはこちら http://www.zoo-koeln.de
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