希少動物人工繁殖研究会 第10回会議
2002年6月3日(月)、4日(火) @姫路キャッスルホテル(兵庫県姫路市)

 毎年この時期に開催される会議で、今回で10周年を向かえ、第10回の記念大会となりました。希少動物繁殖の第一線でご活躍されている各地の動物園の飼育担当者や獣医師などを中心に、研究者や関心のある学生など総勢約140名の参加がありました。プロジェクトの進捗状況報告9題、教育講演1題があり、施設見学会(姫路城・姫路市立動物園・姫路セントラルパーク)が行われました。今回は、この参加報告を書いている楠田も「Project Perissodactyla」の中で発表をしました。

◆進捗状況報告
1. Project Wild Cats & Zoo-Bank(野生ネコ科動物人工繁殖&配偶子バンクプロジェクト)
 「ツシマヤマネコを含む死体からの配偶子の回収状況について(2001〜2002)」
 楠 比呂志 氏(神戸大学農学部附属農場)

 2002年5月15日現在、研究会において108種236個体の配偶子(精子・卵母細胞)が保存されている。このうち過去1年間に回収された62例についてと、新たにツシマヤマネコでの配偶子回収状況、配偶子の性状について報告された。

2. Project Antelope(草食獣人工繁殖プロジェクト)
 「バーラルにおける人工腟法およびコンドーム法による精液の採取」
 西角 知也 氏(姫路セントラルパーク)

 バーラルの近郊劣化回避と人工授精を目的として、人工腟法およびコンドーム法による採精法確立の試みが報告された。成功すれば、動物園間で生体を移動するよりも凍結精子の移動で済むという安全面等でのメリットがある。

3. Project Ape(霊長類人工繁殖プロジェクト)
 「チンパンジー精子の凍結保存法の開発について2」
 楠 比呂志 氏(神戸大学農学部附属農場) 

 チンパンジー精子の凍結保存技術の確立を目的として、いくつかの精子保存用希釈液を用いた比較実験の結果について報告された。

4. Project Perissodactyla(バク人工繁殖プロジェクト)
 「雌雄バクの繁殖生理学的研究−特に血中性ステロイドホルモン濃度の動態について−」
 楠田 哲士(岐阜大学大学院農学研究科)

 ブラジルバクやマレーバクを中心とした繁殖生理に関する基礎研究についての報告と、バクの発情状態判定法など、これまで未解明であった課題についての取り組みが紹介された。

5. Project Elephant(ゾウ人工繁殖プロジェクト)
 
「雌ゾウの血中および尿中プロジェステロン濃度の動態に関する研究」
 岡本 真之助 氏(岐阜大学大学院農学研究科)

 アフリカゾウとアジアゾウの性ホルモン研究において、採血という動物へのストレスを無くすことを目的に、尿中性ホルモン濃度の測定法に関する報告がなされた。

6. Project Aves(鳥類人工繁殖プロジェクト)
 「採精、精子の性状検査と保存、人工授精」
 橘 淳一 氏(姫路市立動物園)

 タンチョウやゴシキセイガイインコなど様々な鳥類での腹部マッサージ法による採精,精子の性状検査や保存,人工授精などについての取り組みが紹介された。

7. Project Tortois & Turtles(カメ類人工繁殖プロジェクト)
 「ウミガメの人工繁殖に向けての基礎的研究」
 大池 辰也 氏(南知多ビーチランド)

 飼育下で繁殖成功例の少ないアカウミガメに対して、採精法の確立を目指した取り組みが報告された。

8. Project Tortois & Turtles(カメ類人工繁殖プロジェクト)
 「リクガメの人工繁殖プロジェクト〈採精の試み〉経過報告」
 川上 博司 氏(吉川爬虫類研究所)

 マレーハコガメの生殖器官の解剖学的観察やインドホシガメの採精法などについて興味深い発表がなされた。カメ類の採精法については様々な問題点があることが示された。

9. Project Lesser-Panda(レッサーパンダ人工繁殖プロジェクト)
 「電気射精法およびマッサージ法による精液の採取」
 
中田 都 氏(鯖江市役所)

 レッサーパンダの国内保有頭数が世界(中国除く)の飼育頭数の、日本の動物園が重要な位置にあることが述べられた。電気刺激法やマッサージ法による採精が行われ、精液性状の検査結果などからマッサージ法の有効性が示された。

◆教育講演
「北海道産動物の種の保存について」
 小菅 正夫氏(旭川市旭山動物園)

 北海道の野生動物を中心に、道内の動物園や様々な研究会、大学が協力し合って、幅広い調査研究が行われていること、オジロワシやオオワシの野生復帰など具体的な計画が進んでいることなどが紹介された。この教育講演でも動物園の重要性をあちらこちらに見ることができた。

◆施設見学会
(姫路城 or 姫路市立動物園 and 姫路セントラルパーク)

 姫路市立動物園と姫路セントラルパークでは、職員による施設案内が行われた。姫路セントラルパークでは、アフリカゾウの採血時などに行う、号令によるゾウの制御が実演された。

 私たち人間という最大の敵によって減少してしまった野生動物を維持し、保存できるのも、人間にしかできないことではないでしょうか?動物園での「種の保存」はそのための一方法に過ぎませんが、非常に有効な方法であることは確かでしょう。その中で飼育下での自然繁殖・人工繁殖技術の向上が求められるのは当然のことです。一般にはあまり馴染みの無い活動かもしれませんが、動物園ではこのような研究がひそかに続けられていること、頭の片隅にでも置いて下さい。次回開催は、2003年6月で岐阜大学にて行われます。関心のある方、近隣の方は参加してみてはいかがでしょうか。

(文責・写真提供:楠田哲士 [岐阜大学大学院農学研究科])



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