市民ZOOネットワーク 2月セミナー開催報告

「私がぞうと暮らすわけ」
ゲスト:坂本 小百合 さん(市原ぞうの国 園長)

2013年2月9日(土) 市原ぞうの国 園内

 

10年ほど前でしょうか、日本各地で動物園の閉園が相次いだ時期がありました。さまざまな動物たちが他の園に引き取られていく中、当時すでに高齢になっていたぞうさんの行先がなかなか決まらず多くの人が気を揉んでいました。そのときに手を挙げてくださったのが、市原ぞうの国の園長さんでした。広大な自然のままの土地にリタイアしたぞうさんを受け入れて自由に余生を楽しんでもらうというお話に、世の中にはなんて素晴らしい方がいらっしゃるんだろう!とただただ感動しました。

そんな園長さんの私営動物園、ぜひ行ってみたいと思いつつも遠いというイメージに囚われ、なかなか思い立てずにおりましたので、園長さんのお話が直接伺えるという今回のセミナー、この機会を逃しては!とばかりに申込みました。懸案の交通手段も、直前になってマイクロバスで連れて行っていただけることになり、さとうあきらさん運転、アクアライン海ほたる経由で総勢18名の楽しい小旅行でした。

 

さて本題。当日のスケジュールは、午前中にぞうさんショーを見学、午後に園長さんのお話を伺い、引き続きSayuri World をご案内いただくというのがコアで、それ以外の時間帯は園内をゆっくり見学することが出来ました。小バケツにバナナやニンジンが入った草食動物用のおやつを園内のそこかしこで売っていて自由にあげることが出来たり、カピバラやマーラの柵内に一緒に入って触れることが出来たりと、公営の動物園に慣れている者にとっては驚きの連続でしたが、来園者がまるまる信頼されているのだと感じました。知らないお客さま同士の間にもつい笑顔の会話が生まれます。

 

園長さん自らの司会による11時からのぞうさんショーでは、アフリカゾウ1頭、アジアゾウ7頭、合計8頭もの雌のぞうさんたちが楽器演奏やダンス、サッカーなどを見せてくれました。来園者参加型のパフォーマンスもありました。たまたまチャリティイベントに出品するとのことで、ゆめ花ちゃんがトートバッグに絵を描く様子も見ることが出来ました。
ショーそのものはもちろん素晴らしかったのですが、ゾウ舎からショーの広場へのゾウの移動にも非常に感銘を受けました。よく見れば地面に赤い線が引かれてはいるものの、コーンを置いたりロープを張るでもなく、警備の人が立つでもなく、すべてがぞうさんとぞう使いさんと来園者の信頼関係の中で当たり前のように行われていました。そして、その際のアナウンスがとっても素敵だったのです。
「ぞうさんたちが歩いてくるよ。おうちの人と手をつないでいるかな?」
おとなに注意を促すのでなくお子さんに呼びかけているのです。こんなアナウンスなら小さなお子さんは自然におとなの手を求めるのではないでしょうか。目の前を何頭もの大きなぞうさんが通るという大興奮のイベントも、過度に緊張することなく手の温もりを感じながら落ち着いて経験できる素晴らしい心遣いだと思いました。

 

坂本小百合園長さんのお話のテーマは「私がぞうと暮らすわけ」。
ご結婚を機に動物プロダクションのお仕事を始められた園長さんは、それ以前にモデルをされていて動物との撮影もご経験なさっていたことから、スタジオで動物に何が求められているかがわかり、それをいかに動物たちに伝えるかに心を砕いたそうです。何でも一番が好きな園長さんは、アリからゾウまで貸す日本一の動物プロダクションを目指しました。けれど、すべての動物に毎日仕事がある訳ではなく、外に出ていくのが生きがいの動物たちが仕事がない日にふさいでいるのを見て、動物園をやろうと考えたのだそうです。
36歳の時に山を入手され、おとなが楽しめる動物園として平成元年の4月28日に市原ぞうの国がオープンしました。私営動物園の良いところは展示替えやキャプションも簡単に変えられることだとおっしゃいます。まさにその通りだと思いました。日動水に加盟して今年で14年になるそうです。プロダクションの仕事のほうは、20年ほど前からCGが主流になり、お得意とされていた長回しでの演技を求められなくなってつまらないと感じ、やめてしまったそうです。
はじめて来たぞうさんは、アドベンチャーワールドから1,000万円で購入したミッキーさん。その後、閉園する動物園やサーカスからのぞうさんも受け入れ、2007年に生まれたゆめ花ちゃんは、日本ではじめて母ゾウによる自然哺育で成長したアジアゾウです。国内最多の9頭のぞうさんがいます。園長さんは、「展示」や「飼う」という言葉を嫌い、一緒に暮らしているとおっしゃっています。ぞうさんの人工哺育のお話なども伺いました。消化吸収のリズムが違うから5分おきに授乳するなどの配慮が必要で、24時間職員が付けないなら生ませないほうが良いと明言されたのが印象的でした。
もう一つ印象に残っているのが、一番年長のゾウ、ようこさんのお話です。交通事故にあってケガをし、車嫌いで臆病な様子だったことからショーには出られないと考え、他のぞうさんがショーに行く時もゾウ舎でお留守番だったそうです。ところが何かのきっかけでショーに連れて行ったところなんと溌剌と楽しそうで、実はみんなと一緒にショーに行きたかったのだとわかったのだそうです。人間と一緒に暮らす動物の満足度、幸福度を考えるうえでたいへん勉強になるお話でした。

 

お話の後、500メートルほど離れた Sayuri World まで、園の職員の方が運転してくださるマイクロバスで移動。こちらではラマ、七面鳥、カピバラ、ウサギなどが放し飼い、囲われたスペースにキリンやレッサーパンダなどもいます。園長さんからおやつのカップをプレゼントしていただきました。食いしん坊のラマさんは目ざとく見つけると突進して来ます。あげたくない時はハンカチをかぶせるなどして見せないようにとアドバイスをいただき、ラマさんは嗅覚より視覚なんだなと、そんなことも勉強になりました。みなさんマジシャンのようにラマさんをかわし時に襲われ(笑)ながら楽しく過ごさせていただきました。


(市民ZOOネットワークサポーター 浅井るり子/写真撮影 大木正美)

 

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