市民ZOOネットワーク10月セミナー開催報告

「 第12回国際エンリッチメント会議に参加して 」
ゲスト:佐々木匠さん(埼玉県こども動物自然公園)

2015年10月23日 地球環境パートナーシッププラザ セミナースペース

 

 埼玉県こども動物自然公園の佐々木匠さんが、今年2015年5月25日から28日まで、アジアで初めての開催となった北京動物園での「国際エンリッチメント会議ICEE」に参加されたのでその様子を報告していただきました。

 国際的な催しに慣れていない中国の動物園での開催ということで、驚くことも多々あったようですが、佐々木さんご自身も海外の国際会議は初参加で、問題点も含めて刺激的だったとの前置きから始まりました。

 会議日程3日間、一日あたり10件以上の研究発表があったそうですが、実際には参考になるエンリッチメントは海外の数件のみで、発表数は多くても北京動物園でのエンリッチメント事例は、開催に合わせて今年になって実施し始めたばかりと思われるものが多く、これがエンリッチメントなのか? と疑問になるものもあったそうです。

 その中でも、佐々木さんが特に注目された発表をいくつか紹介していただきました。

 まず、米国・フェニックス動物園における家畜に対してのエンリッチメントについて。牧場のウマやウシ、ヤギたちがデッキブラシやパイロンで楽しそうに遊ぶ様子に、日本の園館では身近な使役動物という認識しかなく、今まで家畜をエンリッチメントの対象として考えていなかったのでは、と興味をもたれたそうです。現在、ポニーでの乗馬体験を担当されている佐々木さんならではの注目点だと思いました。遊具も身近なものをつかっているので、すぐに日本の園館でも応用ができそうな内容でした。

 香港オーシャンパークではイルカたちに与えるおもちゃ(ブイなど)のすべての写真を撮影して一覧に登録し、一か月のエンリッチメントスケジュールを作成、おもちゃと遊びの種類を組み合わせて計画的に準備されていたのも非常に興味深かったです。データとして、スタッフ全員が共通認識できるように管理されている点、前日とは違うおもちゃや遊び方で、主担当がいなくても、退屈しないように、かつ安全に楽しめるので、こちらも日本の各園館でも参考にできるのではと思いました。

 会議の前後に北京動物園の視察もされたそうですが、ジャイアントパンダは恵まれた施設でしたが、その他の施設は古い形式のものも多かったそうです。広い園内にいくつかの個別の施設があり(パンダ舎その他)、それぞれ入場料を別に取るシステムで、研究費や管理維持費のサポート代として新施設の料金を追加で来園者から頂くことは、日本ではできるのだろうか、と思いました。

 会議の公式言語は中国語、同時通訳ではなく逐語訳での会議進行、海外組のポスター発表の準備もされておらず、休憩時間の交流も中国人スタッフは別室に移動し、海外からの参加者のみ残されての歓談と、国際会議のホストとして、おもてなしをするという認識が乏しかったのではという印象だったそうです。中国の発表の中で目を引いたのが、飼育関係者ではなく、地元の(選ばれた)中学生たちが英語で発表した北京動物園での動物観察(それも会議の直前3月ごろ実施したもの)だったというのも皮肉な現実です。

 ただ、中国を代表する北京動物園の飼育担当者といっても、簡単にネットで世界の情報を入手したり、交流したりできない制限された環境に置かれているため、これを機に、少しでも国際化が進んでいけばと思いました。

 最後に、次回アジアで開催されるときは、台北?それともシンガポール?

 もし日本の動物園で、エンリッチメントについての国際会議を開催するとしたら、場所はどこが適当なのか?また、準備・運営はどうするのだろうか?との佐々木さんの問いかけで終わりました。

   ネット情報が発達した現在でも、中々入手しがたい北京動物園内の様子や、中国のお家事情が垣間見える興味深い報告会でした。

 

( 市民ZOOネットワーク サポーター  西川 加代子 )

 

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