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動物たちの豊かな暮らし

エンリッチメント大賞 2017

「エンリッチメント大賞2017」
― サイエンスに基づいた取り組みが受賞 ―


 エンリッチメント大賞2017には、35件の取り組みに対して全国から50通の応募がありました。そのうち10件が一次審査(書類選考)を通過し、スタッフによる現地調査の後、9月10日に二次審査(審査委員会)を開催しました。そして、大賞1件、奨励賞2件が選ばれました!
 受賞した取り組みはどれも、エンリッチメントの取り組みの中に科学性(サイエンス)が光るものでした。それは、ただ「工夫をする」ということだけでなく、なにが動物のためになり、実際に対象動物の福祉向上にどれだけの効果が上がったかを客観的に判断するために、事前の目標設定と計画、実施方法と記録、そして効果判定が科学的手法で実施されているかどうかということです。これらの作業は「S.P.I.D.E.R.モデル」と呼ばれ、エンリッチメントを実施するうえで重要だと言われています(下記参照)。しかし、このような科学的な評価に対する日本の動物園組織の理解はまだじゅうぶんとはいえず、現場レベルで細々と取り組まざるを得ないのが現状です。
  大賞を受賞した取り組みは、ボランティアや研究者も巻き込んでS.P.I.D.E.R.モデルを完成させ、国際雑誌への論文発表のレベルまでに仕上げました。奨励賞の2件も、科学的なデータの収集とそれに基づく取り組みが、非常に高く評価されました。

※「SPIDERモデル」とは、エンリッチメントを実行する上での一連の作業「Setting Goals(目標を設定)」「Planning(計画)」「Implementing(実行)」「Documenting(記録)」「Evaluating(評価)」「Readjusting(見直し)」の頭文字をとったもの。(落合−大平 2009 「霊長類研究」参照)

> 募集の詳細はこちら(募集終了)
> 応募総数と審査方法
> 全応募はこちら[.pdf 135KB]
> 一次審査を通過した取り組みについて


大賞

ニホンザルの餌の季節変化とエンリッチメント
(東京都恩賜上野動物園)


【審査委員コメント】
 ニホンザルは日本を生息地とする野生動物であり、野生での行動、社会、生態などの研究は、「霊長類学」として世界をリードしてきました。そこから得られた知見から、ニホンザルは季節変化の大きい環境に高度に適応した動物種であることがわかっています。しかし国内の多くの動物園では、ニホンザルをコンクリートの“サル山”で飼育し、年中リンゴやサツマイモ等の餌を与えるため、栄養過多が原因の肥満による疾患、連続出産による母体への負担、過密によるストレスといった問題が起こっています。
 上野動物園では、ニホンザルの野生でのデータと飼育下で得られたデータを照らし合わせ、枝葉や堅果などの野生本来の食べ物を導入し、給餌回数を1日4〜5回に増やしました。さらに、餌のカロリーに季節変化をつけることで、秋に貯えた脂肪を燃焼して冬を乗り切るという自然な体内リズムも作り出すことに成功しました。こうして、適正な体重とその季節変化、出産間隔、発情期や換毛期など、野生ニホンザルの状況を再現することができました。
 これらの取り組みの成果は、動物園の国際的な科学雑誌である「Zoo Biology」はじめ、複数の論文に発表されています。飼育担当者とボランティアによって記録されてきた個体ごとの体重データが利用されたり、霊長類学の専門家と論文を共同執筆したりと、たくさんの人々の長期に渡る努力と協力が、これらの成果に結びついたと評価できます。
 本取り組みは、日本の動物園でのニホンザル飼育に一石を投じるものであり、新たな飼育方法や施設の確立といった変化をもたらすことが期待されます。

東京都恩賜上野動物園(とうきょうとおんしうえのどうぶつえん)
http://www.tokyo-zoo.net/zoo/ueno/
〒110-8711 東京都台東区上野公園9-83
TEL:03-3828-5171

>応募内容 >受賞の声

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奨励賞

ボルネオゾウの科学的かつ献身的なウェルフェア向上に向けた取り組み
(福山市立動物園)


【審査委員コメント】
 飼育担当者自身が「S.P.I.D.E.R.モデル」を意識し、科学的評価にもとづく環境エンリッチメントを実施しています。詳細な観察はゾウの結核感染の発見に結びつき、ゾウにとっての負担のない投薬と、職員全員による取り組みへと展開しました。市民に対する適切な情報提供により、来園者によるサポート体制も確立され、野生での保全活動へも広がっています。
 飼育下のゾウに特有の行動として「意味もなく体を揺する」「同じ場所を行ったり来たりする」といった常同行動があります。同園による2010年の調査で、こうした常同行動が展示時間の約6割を占めることを明らかにしました。この結果をもとにエンリッチメントをすすめ、「廃タイヤの提示」で異常行動が2割以上減少し、「餌を土に隠す」ことで行動パターンが増加することなどを明らかにしています。
 これらの研究は、文部科学省の科学研究費や国立大学の共同利用研究費を受けて科学的な取り組みとして実施され、その研究成果は学会でも発表されています。また治療では、アメリカやネパールで作成された結核感染したゾウの飼育マニュアルや、最新の論文を参考にするなど、園長をはじめ複数の獣医師、飼育担当者らがその科学性を強力に支援しています。今回の賞に市民からの応募も多く、「飼育を通じて動物園の問題を市民と共有し、ともに解決の糸口を探る」という動物園の新しいあり方が示されました。
 現在まだ結核治療中であり、群れ飼育など次のレベルの福祉へ進むことができない状況がありますが、結核治療中のエンリッチメントのあり方の検討や結核克服後の展開にも期待します。

福山市立動物園(ふくやましりつどうぶつえん)
http://www.fukuyamazoo.jp/
〒720-1264 広島県福山市芦田町福田276-1
TEL:084-958-3200

>応募内容 >受賞の声

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奨励賞

サルたちの健康を考えた採食エンリッチメント
(宇部市ときわ動物園)


【審査委員コメント】
 動物の健康を考える上で、日常与える餌はとても重要です。動物の種類により、適応してきた生息地は異なり、手に入る餌も異なります。ときわ動物園では、サル類それぞれの野生での採食内容の知見にもとづく採餌エンリッチメントを実施してきました。その結果、適切な体型になり、毛並みなどが良くなるなど様々な改善がみられたことが評価されました。
 「サル=バナナ」というイメージがありますが、実際には同じサルの仲間でもそれぞれの生息地の環境によって食べ物は異なり、それに合わせた消化器官を持っています。葉食者(リーフイーター)と呼ばれるハヌマンラングールなどはもちろん、シシオザルやトクモンキーなどのマカク類でも、消化管のつくりは繊維質の多いものに適しており、これまで一般に与えられてきた果実を中心とした餌では不適当であることが予想されました。
 そこで、海外の動物園が出版している餌の資料などを参考に、餌の改善を実施し、飼育個体の適正な体型作りに取り組んでいます。これにより、順位による体格差が減少し、低年齢個体の死亡率が低下、闘争で負傷する個体が減るなど、さまざまな問題点が解決されました。
 隣接する植物園との連携や、市民体験型の採食エンリッチメントの実施など、広がりが感じられる試みです。餌の改善にともなう毛並みや便の状態の改善などについてはまだ科学的評価が及んでいませんが、さらなる福祉改善効果の可能性が潜在する部分でもあります。取り組みの継続と、S.P.I.D.E.R.モデルの構築、園全体での情報共有と研究へのサポートなど、更なる発展を期待します。

宇部市ときわ動物園(うべしときわどうぶつえん)
https://www.tokiwapark.jp/zoo/
〒755-0003 山口県宇部市則貞3-4-1
TEL:0836-21-3541

>応募内容 >受賞の声


 市民ZOOネットワークでは、環境エンリッチメントの試みを、市民が理解し、評価し、応援する社会づくりを目指し、今後もエンリッチメント大賞を継続していきたいと思っています。

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