Overview

総評

第6回目となった今年は、全国から70件の応募がありました。第一次選考を通過した16件について再調査がおこなわれた後、第二次審査(本審査)により、以下3つの施設(担当者)が「最優秀賞」「動物園人賞」「奨励賞」に選ばれました。

今年のエンリッチメント大賞は、「エンリッチメント」本来の考え方に立ち戻った表彰になりました。本来、エンリッチメントは「動物のためのもの」です。しかし「エンリッチメント」という言葉が少しずつ社会にも浸透してくるにつれ、必ずしも動物のためでなく、観客に行動をみせる展示手法として、エンリッチメントという表現が使われるようになっています。エンリッチメントは展示手法ではありません。飼育されている動物の暮らしを少しでも自然の中での暮らしに近づけるための工夫のことです。今回受賞した3つの施設(担当者)は、「飼育されている動物のために環境を整えるとはどういうことか」というエンリッチメントの原点に立ち戻った取り組みが評価されました。こうした取り組みをおこなうためには、その動物種についての豊富で正しい知識が必要不可欠です。さらにこうした取り組みを実践できた背景には、本人の多大な努力とともに、上司や同僚など関係者の多大な協力があったことと思います。今後も、そうした関係者のサポートを期待するとともに、動物園という場を活用して“動物のためのエンリッチメントを進められることを望みます。

Winners

受賞した取り組み

最優秀賞

恩賜上野動物園東京都

クマたちの丘

「クマたちの丘」では、明確な四季のある日本に暮らしているツキノワグマの本来の生活を再現するとともに、冬籠もりを成功させました。また、モニターなど を利用して、その様子をリアルタイムで来園者に見せました。この “動物本来 の(動かない)生活を再現し、その姿を見せる”展示は、「行動しない展示」として画期的なものでしょう。また、野生では同所的に暮らす複数種の動物たち が、時間差で同じ場所を使うという工夫もされています。これらは長年にわたる計画と地道な調査研究、そして動物の様子を詳細に観察したことを基本として科 学的に取り組まれたものです。新しく完成した施設に対してというより、こうした発想と実現に向けた努力に対して、審査員全員の高い評価を得ました。

審査委員会では「単に観客動員のためにつくられた施設ではなく、動物の生態や行動を綿密に調査して設計している」「完成後も大学との共同研究で、 冬眠中の呼吸数や脈拍などの生理機能の変化を科学的手法で測定するなど、ソフト面もしっかりしている」「飼育係の時代から抱いていた考えを実現させた、小 宮輝之園長の情熱と意志に対しても評価したい」という声も聞かれました。今後の更なる工夫に期待したいと思います。

所在地
〒110-8711 東京都台東区上野公園9-83
TEL
03-3828-5171
Winner's Voice

受賞の声 ―

エンリッチメント大賞をいただきありがとうございます。少し前の動物園なら寝ている動物を見せていれば、お客さんから叱られたことでしょう。もっと時代を遡れば石を投げられたかもしれません。今回の受賞対象になったツキノワグマのクーは3ヶ月間寝続けたのですが、冬眠というクマの本来の冬の生態を再現したということが認められたのでしょう。冬眠展示は動物園関係者や動物園に関心のある方々だけでなく一般の方々からも注目されたようで、クマを起こせというお客さんは一人もいませんでしたし、この冬の入園者数は昨年の二割増しという結果になりました。エンリッチメントというと芸としてではなく、動物の野生行動を再現するということで、動きを引き出したり、今までに無かった角度で動物を見せたり、といった工夫がポイントになってきたと思います。しかし、その原点はやはり動物の生態をどれだけ忠実に再現したかにかかっているのではないでしょうか。そういう意味で寝ているツキノワグマに大賞をいただけたこと、大変に感謝しております。

恩賜上野動物園 園長 小宮 輝之

動物園人賞

札幌市円山動物園北海道

本田 直也さん

爬虫類館担当者として長年、それぞれの動物種にあった環境整備に多大な貢献をしてきたことが評価されました。生態や生理など、種の特性を調査研究し、適切 な環境づくりと体調管理に努めた結果は、ヨウスコウワニやカンボジアモエギハコガメなど飼育下繁殖が難しい希少動物の「繁殖」という形で証明されていま す。

エンリッチメントというと足りないものを補うというイメージが大きいですが、動物種によっては必ずしもそうとは限りません。その種が本当に必要と している環境を突き詰めた結果、“引いたり”“制限したり”することがエンリッチメントになることもあります。本田さんは、気温・湿度・日照などの管理を 徹底し、特に繁殖では一時的に動物を過酷な環境に置くという環境づくりにも取り組んでいます。さらには自然環境の要素を取り入れるだけでなく、飼育下での 暮らしの中で、新しい体内リズムを作り出す方向にまで展開がみられます。

また、2007年3月には、自ら企画した『円山スネークアート展:なぜ多くの人は爬虫類・両生類を嫌うのだろうか』を成功に導きました。鷹匠としての技術に裏打ちされたフリーフライトや、ブログによる情報発信などバランス感覚の良さも評価されました。今後もその卓越したセンスと技術を動物たちのために使っていただきたいと思います。

所在地
〒064-0959 札幌市中央区宮ヶ丘3番地1
TEL
011-621-1426
Winner's Voice

受賞の声 ―

今回は名誉ある賞をいただきありがとうございました。 「飼育係冥利に尽きる」とはまさにこのことだと思います。

爬虫類は一般的にスポットライトの当たる機会が少ない動物です。私は飼育担当者として爬虫類の魅力をいかに伝えるべきかを考えてきました。エンリッチメントに関しても他の高等動物とは違った理念で実践してきたと思います。このことが陽の目を浴びることで、今後の動物管理やエンリッチメントに関しても、「違った視点から考える」というきっかけになってくれれば幸いです。

最後にこれまでの活動を見守ってきてくれた札幌市民の皆様、円山動物園関係者に感謝いたします。

札幌市円山動物園 飼育展示課飼育展示二係 本田 直也

奨励賞

大宮公園小動物園埼玉県

和久井 洋平さん

ツキノワグマやアムールヤマネコなどが、立体的に行動できる空間をつくったり、肥満に陥りがちな飼育動物の餌を改善したりと、お金をかけず、手間をかけ る取り組みを地道におこないました。その結果、動物の健康状態が改善され、ブチハイエナやアムールヤマネコの繁殖にも成功したという点は評価に値します。 エンリッチメントの一部を来園者参加型イベントとして実践し、来園者に動物の生態・形態を伝えているという教育活動も評価されました。

大宮公園小動物園の施設は、必ずしも近代化が進んでいるとは言えません。今回の取り組みは、他の動物園が長年続けているエンリッチメントの実践と 比較すれば小さなものに過ぎないかもしれません。奨励賞は、その努力の過程を評価したものであり、今後に繋げていって欲しいとの願いを込めたものです。今 後、実施したエンリッチメントについての効果判定をおこなう必要があるでしょう。また、より多くの関係者がこうした取り組みに目を向け、動物園の環境と動 物たちの暮らしについて再考することを期待します。

所在地
〒330-0803 埼玉県さいたま市大宮区高鼻町4
TEL
048-641-6391
Winner's Voice

受賞の声 ―

この度は奨励賞というかたちで評価していただき、ありがとうございます。

最近、来園者から昔と随分変わってきれいになった。面白い動物園になった。などの声を作業中に聞くようになりました。その声を励みにがんばってきました。これからも動物達の幸せのため、観に来てくれる来園者のためにまだまだやりたいことや、伝えたいこと、やらなくてはいけないことが沢山あります。どこまで出来るかわかりませんが、これからも精一杯励んでいきたいと思います。本当にありがとうございました。

大宮公園小動物園 和久井 洋平

Session Data

2007年の開催データ

募集期間
2007年5月1日 〜 2007年6月30日
応募総数
70通
審査方法
下記の審査委員による一次審査(書類)、二次審査(追加調査をもとにした審査委員会)により選定。

審査委員(五十音順)

  • 正田 陽一東京大学名誉教授
  • 松沢 哲郎京都大学霊長類研究所教授
  • ロニー・アレキサンダー神戸大学大学院国際協力研究科教授
  • 川端 裕人作家
  • 村田 浩一日本大学生物資源科学部教授