「大艦巨砲主義は遠い過去の話」 大きな組織や大規模な施設、設備が強い競争力をもつとする考え方。
私の手元に13年前に書いた原稿がある。「市民ZOOネットワーク 『エンリッチメント大賞2004』(飼育施設部門)受賞の言葉」と題したもので、1995年に策定した「天王寺動物園ZOO21計画」に基づきアフリカサバンナゾーンとアジアの熱帯雨林ゾーン・ゾウ舎の建設を進めている中で、アジアの熱帯雨林ゾーン・ゾウ舎が大賞を受賞した時のもの。2005年の元旦は天王寺動物園の創立90周年の記念日、まさにその時に大賞受賞のうれしいニュースが届き、天王寺動物園スタッフ一同、大いに沸き立ったのを覚えている。
新ゾウ舎は2001年9月に着工、入園者に感動と安らぎを与える場となるよう、野生の動植物が生息する環境を再現し、人と動物のかかわりを展示する生態的展示の手法を取り入れ、当時としては巨額の事業費をかけて竣工した。私は大賞を取れる絶対的な自信をもって応募し、勝ち得た。
あれから長い年月が過ぎ、私も天王寺動物園を定年退職し、近畿大学で教鞭に立ち、そして昨年3月再び大学での定年を迎えた。4月、私は6年ぶりに動物園に再び戻ってきた。山口県の宇部市ときわ動物園、すべての施設を生息環境展示にし、各施設には展示動物の生活を豊かにするための工夫が飼育担当者によって凝らされていた。着任してすぐに、この動物園の展示、飼育管理の工夫、取り組み、エンリッチメント大賞が狙えると思った。
応募し選に漏れた時、受賞した動物園の取り組んだ企画内容を知って驚いた。10年ひと昔、日本の動物園もこんなことができるようになったのか、巨額の事業費をかけたものではなく、展示動物がいかに健康で幸せに暮らせられるか、その創意工夫、そしてチーム力、一般の方たちへの普及啓発。少し動物園を離れていた間に、日本のエンリッチメントへの取り組み、考え方は大きく変わっていたのだ。戦艦大和のような大艦巨砲は日本の動物園にはもはや存在しない、喜ばしいことである。
今回、宇部市ときわ動物園の「栄養学の取り組み」がエンリッチメント大賞2017奨励賞をいただけたこと、まことにありがとうございます。生活の質改善に繋がる飼育担当者の地道な努力の成果を評価していただけたものと感謝申し上げます。さらなる発展にご期待ください。
宇部市ときわ動物園
園長 宮下 実
この度は、奨励賞をいただきありがとうございます。
宇部市ときわ動物園におけるサルの給餌内容の見直しは、2015年1月に開始し現在3年目になる取り組みです。果物と根菜を中心とした高糖質な従来のものから、タンパク質と食物繊維の割合を増やして糖質を抑えることを意識した内容に変更しました。その結果、個体間の差が目立っていたトクモンキーの体重が群れ内で均衡化したり、シシオザルの毛並みが見違えるほど美しくなったりしました。
これまで当たり前に与えてきた果物をメニューから大幅に減らしましたが、サルの消化管のつくりや本来の食物をもとにしてみると、自然な変更だと考えています。とはいっても、日本の動物園でくらす動物たちにとって、野生に近づけることが必ずしも良いことだとはいえません。調査研究から得られた知見を目の前の個体におとしこんで考えることを最も大切にして進めてきました。
ただ、私たちの取り組みはまだまだ未熟なもので、トレーニングによる体重測定、ボディコンディションや毛並み、糞便の評価などを積み重ねることで徐々に傾向が見えてきたという段階です。こうして注目していただくことで、わからないことだらけの動物園動物の栄養を考えるきっかけとなることができれば幸いです。
最後に、今回の受賞は一般の方の推薦をいただいて選考していただいたものと聞いております。基本的な飼育管理の見直しという意識が強く自薦もしていなかったので大変驚きましたが、私たちの思いが市民の方に確かに届いているのだということに、受賞そのもの以上の大きなしあわせを感じています。この推薦と受賞、そしてご助言をくださった関係者のみなさまに強く背中を押していただき、取り組みの発展と発信にますます励みたいと思います。