Overview

総評

15回目となるエンリッチメント大賞の授賞園が決定しました!今年は、31件の取り組みに対して53通の応募があり、そのうち9件が一次審査(書類選考)を通過しました。スタッフによる現地調査の後、10月8日に審査委員による二次審査(審査委員会)を開催し、その結果として大賞2件が選ばれました。

大賞を受賞したのは、大牟田市動物園(福岡県)と日立市かみね動物園(茨城県)です。どちらも、現在、勢いが感じられる動物園です。大牟田市動物園は、明確な目標設定とそれに向かう行動力、そして積極的な情報公開など、それらがすべて動物の幸せにつながっていることが評価されました。日立市かみね動物園は多様な動物種にエンリッチメントを実施し、そこに市民が参加できる機会を設け、同時に組織としての支援体制をつくっていることが評価されました。

今回の授賞は、特定の動物種への取り組みを評価するものではなく、園全体の環境エンリッチメントの実施内容と実施体制を評価したものとなりました。環境エンリッチメントは、それぞれの現場で実施するものですが、その支援体制はとても重要です。この2園は、時には今までの動物園の常識を覆すような新しい取り組みにも挑戦していますが、その挑戦を園全体で支援しています。ホームページやSNSなどを使った積極的な情報公開をおこない、市民や専門家が関わりやすく、一緒になって取り組みを支援する体制が取られています。これまでは、現場の飼育担当者の大変な努力で環境エンリッチメントが実施されてきましたが、今回、このように組織としてエンリッチメントに取り組む2園が現れたことで、審査委員からは、「日本の動物園におけるエンリッチメントの“新たな時代の幕開け”のようだ」との感想もありました。

今後も、動物たちの幸せな暮らしを追求し続ける取り組みに期待したいと思います。

Winners

受賞した取り組み

大賞

大牟田市動物園福岡県

みんなでエンリッチメント!!〜実践・継続・発展・発信〜

積極的な情報公開やメディアへの露出などにより飛躍的に知名度を上昇させており、現在もっとも勢いを感じさせる動物園の一つかもしれません。今回の自薦応募として提出された文書は、一次審査の時点で審査委員を圧倒させ、注目を集めていました。園全体での取り組みを自ら「実践・継続・発展・発信」と表現していることからも、環境エンリッチメントの重要性を正しく認識し、努力されていることがわかります。

大牟田市動物園は、飼育担当者11名と獣医師2名の、地方都市の小さな動物園ですが、“動物福祉に配慮した科学的な飼育管理”を掲げ、積極的にエンリッチメントを取り入れています。特定の担当者や動物種に限定されがちな現状を問題視し、園全体で幅広くエンリッチメントを取り入れ、取り組みが一過性にならないような体制作りをおこなっています。エンリッチメントの実施内容の共有化や客観的な評価のため、海外の例に倣い、園内で実施するエンリッチメントのリスト化を始めました。「環境エンリッチメントツール登録票」は写真付きで目的・機能や設置頻度などが簡潔に記載されており、瞬時にツールの特性を把握できます。登録時には、園長・倫理福祉委員長・獣医師の確認を得る必要があり、エンリッチメント実施後には評価リストも作成されます。月1回、園内でエンリッチメント会議を実施し、全職員でのディスカッションがおこなわれます。

ハズバンダリートレーニングの導入による個体の健康管理にも取り組み、マンドリル、サバンナモンキー、ライオン、トラ等での無保定採血の実績を挙げました。ストレス軽減や健康維持などの点で動物福祉に直結すると同時に、それ自体も動物の社会的行動を発現させるエンリッチメントととらえて実施しています。さらに、老齢個体の細やかな病状や、詳細な血液データなども公開しています。

明確な目標設定とそれに向かう行動力、そして積極的な情報公開を評価しました。今後、それらの取り組みが動物の福祉につながっていることを科学的に検証し、実施内容に対する適切なフィードバックがなされていくことを期待します。

大牟田市動物園(おおむたしどうぶつえん)

所在地
〒836-0871 福岡県大牟田市昭和町163番地
TEL
0944-56-4526
応募内容を見る(PDF)
Winner's Voice

受賞の声 ―

この度は栄誉ある賞を頂き、心より感謝申し上げます。

今回このエンリッチメント大賞に自薦で応募するにあたり、当園の取り組みに「みんなで”GAMADASE”エンリッチメント!!」というタイトルを付けました。この ”GAMADASE” とは大牟田周辺の方言で『がんばれ』という意味です。大牟田という小さな地方都市で、園全体でがんばっているエンリッチメントをみんなに知ってほしい!という願いをタイトルに込めました。

当園は、どの飼育環境も基本的に狭く、老朽化が進んでいます。また、決してマンパワーや資金が潤沢にあるとは言えません。そのような環境の中にあっても、“動物福祉に配慮した科学的な飼育管理”を掲げ、積極的にエンリッチメントを行っています。

そこで当園では担当者や動物種に限定されることなく、園全体で幅広くエンリッチメントを取り入れ、また、一過性の取り組みにならないように継続し、発展させるための『仕組み造り』を始めています。さらに、それらの取り組みを積極的に発信しています。

具体的には、床材をコンクリートから砂にする、夜間に寝室を開放する、ハズバンダリートレーニングによるより動物の負担が少ない適切なケア、エンリッチメント管理のための登録票の導入、月1回のエンリッチメントミーティング、積極的な情報公開による市民や他園館を含む関係者とともに成長していけるような働き掛けなどです。これらの取り組みは、当園のような小さな動物園だからこそ合意形成がし易く、実効性が高いと考えられます。

まだまだ一歩を踏み出したばかりですが、今回の受賞はこの一歩に対する大きな評価を頂いたものと受け止めています。

当園で試行錯誤がなされたエンリッチメントの『仕組み』が、日本の動物園におけるエンリッチメントのモデルケースとなり得ると考えています。

また、今回の受賞は、他園館の方々からのご助言や動物園を支える市民、関係者、経営者の方々の理解なくして成し得なかったものです。たくさんの ”GAMADASE” を本当にありがとうございました!

大牟田市動物園 飼育員 伴 和幸

大賞

日立市かみね動物園茨城県

総合的な取り組みと市民参加によるサポート体制の構築

かみね動物園で飼育されている複数の動物種へのエンリッチメントに対して、自薦他薦含め複数の応募がありました。審査の結果、個々に実施されるエンリッチメントはもちろんながら、園長の強力なバックアップにくわえ市民も参加して現場の取り組みをサポートする体制そのものが評価の対象とされました。

かみね動物園では「エンリッチメントは失敗を恐れずに!」の精神のもと、70以上の取り組みがおこなわれています。カバでは、落ち葉や浮草の投入や丸太の設置により新たな採餌・遊びの行動を引き出したり、高齢個体のためプールの水量を増やしたり水底に砂を敷き段差をなくすなどして足への負担を軽減させました。カワウソでは、狭い施設でのイキイキ計画として、棒や筒、カップ、タッパーを用いた採餌の工夫など11の取り組みの中から毎日2〜3つのエンリッチメントをランダムに実施しています。カピバラでは運動場に草を繁茂させ、草を倒す、引き抜くなど新たな行動を引き出し、チンパンジーではトレーニングに獣医師も参加することでストレスなく治療が受けられるようにもなりました。

さらに、「楽しく入って、学んで出られる動物園」をモットーに、カワウソのエンリッチメントのアイデア募集やチンパンジー放飼場の植樹祭、ネズミの遊具を作るワークショップなどを開催しました。これらのイベントや動物園ブログ、展示場の掲示物などにより、環境エンリッチメントについての市民の理解を深めるとともに、職員と来園者が一緒に動物の幸せを考える環境ができました。

以前は「古く老朽化した地方の動物園」という印象が拭いきれませんでしたが、近年の地道な取り組みとそれを支援する組織づくりにより、園の雰囲気はまったく別のものになりました。エンリッチメントをガイドやイベントに活かす来園者参加型の取り組みを実施し、市民のエンリッチメントの理解の向上に努めている点でも、かみね動物園の取り組みが国内の動物園のモデルケースになることを期待します。

日立市かみね動物園(ひたちし かみねどうぶつえん)

所在地
〒317-0055 茨城県日立市宮田町5丁目2-22
TEL
0294-22-5586
応募内容を見る(PDF)
Winner's Voice

受賞の声 ―

この度は、エンリッチメント大賞に選考頂き誠にありがとうございます。

当園では、過去にもエンリッチメント大賞2012を受賞したところでありますが、今回は個々の取り組みの枠を超え、「園を挙げての総合的なエンリッチメント」という視点で評価を頂き、前回とはまた違った意味で重みのある賞と受け止めているところです。

当園は開園50周年となる2007年以降、施設の大幅なリニューアルに取り組んできました。リニューアルに際しては動物たちが快適に暮らせる環境づくりと、お客様にとっても見ていて楽しい施設づくりを心掛けてきました。同時に、すべての獣舎の更新は予算的に叶うはずもなく、そうした旧い施設の動物や来園者に対しての取り組みは、職員のアイデアで乗り切ってきました。今回受賞のきっかけとなったカワウソとカバはまさに後者の視点で取り組んできたものです。

また、施設の整備だけではなく、「楽しく入って、学んで出られる動物園」をモットーに、動物たちの特徴や生態を理解してもらうため体験型のワークショップやかみねおもしろZOOサロンの開催、かみねっちょ新聞の発行など、ホームページやFBなど既成のネット環境だけに頼らない情報発信にも努めてきました。こうしたハード・ソフト両面から取り組んだ結果が園全体の総合的なエンリッチメントにつながったものと推察するところです。

関係者の皆さまにはこれまでのご支援ご協力に感謝申し上げますとともに、今回の受賞を励みとして、動物にとっても来園者にとってもより楽しく幸せな空間が創出されるよう更なる取り組みを続けてまいりたいと思いますので、今後とも変わらぬご指導、ご教示を賜りますようお願い申し上げます。

日立市かみね動物園

園長 生江 信孝

このような素晴らしい賞をいただけたことを大変嬉しく思います。3年前から「コツメカワウソのイキイキ計画」と題して様々な環境エンリッチメントに取り組んできました。

試行錯誤を繰り返す中で、飼育環境の改善はもちろんのこと、「取り組み自体を展示にすること」「動物園としての想いを乗せること」を強く意識して、ガイドの時間を設けたり、解説板を設置したり、ブログやSNSでの積極的な情報発信を行ってきました。その結果、「かわいそう」と言われ続けてきた展示場から、「面白い」「なるほど」という声が聞こえてくるようになりました。

今後は、取り組みを継続すると共に、参加型の取り組みを行うことで、動物の幸せという答えの無い問いを、来園者と一緒に考えていけるような動物園を目指していきたいです。

飼育員 中本 旅人

カバの寿命は飼育下で約50年と言われています。私が担当するカバは2頭おり、1頭は現在53歳。以前は長寿記録を更新することが目標でしたが、それよりもカバ達にとっての明日を少しだけ良くすることを考えるようにしました。小さな向上が結果的に長寿に繋がると信じていますが、今後はそれを科学的に分析する視点も持たねば。

「試しに応募しよっと」軽い気持ちで出した私たちの取り組み。これがきっかけで園全体が評価された事は本当に有難いです。私たちがやっている事は特に新しいものでもなく、申し訳ないくらい簡単なものばかりです。他園館の真似も多数。

実は今も本当に大賞なのか信じられません。まだまだな部分はたくさんあるし、遊びに来てみたらがっかりと言われやしないかと怯えています。今回の件で身が引き締まりました。

多くのアドバイスをくれた関係者の方々、共に楽しんでくれる来園者、そして動物たちに感謝です。ありがとうございました。

飼育員 井上 久美子

Session Data

2016年の開催データ

募集期間
2016年5月1日 〜 6月30日
応募総数
53通(31件の取り組みに対し)
審査方法
下記の審査委員による一次審査(書類)、二次審査(追加調査をもとにした審査委員会)により選定。

審査委員(五十音順)

  • 岩田 惠里いわき明星大学 教授
  • 川端 裕人作家
  • 幸島 司郎京都大学野生動物研究センター 教授
  • 正田 陽一東京大学 名誉教授

2016年の全応募一覧を見る(PDF)